2021年3月4日木曜日

2020年モスクワ旅行記(5日目)。おとぎ話の世界にきちゃった〜!?の巻。

  2月23日(日曜日)。

 昨晩から降りはじめた雪は、朝になってもチラチラと降りつづけ、窓から見える屋根や木々は、みんなうっすらと白い化粧をしている。モスクワに来てはじめての雪で、ようやくイメージしていたモスクワの冬を実感したような気になった。風もあるので、今日は観光できるかどうか不安だったが、天気予報を見ると午後にはやみますよとのこと。不思議なことに、正午になると雪も風もピタッと止んで、お日様が顔を出した。すごい、的中。外の気温は2度、今日はトレチャコフ美術館の新館へ向かおう。


旅の準備から前日19日、ロシアへいきた~い!の巻

2月20日、『レーニンを見に行きた~い!の巻

2月21日、『ガガーリンとライカに会いた〜い!の巻

2月22日、『トレチャコフ美術館へ行きた~い!の巻


 トレチャコフ美術館の新館は、昨日訪れた本館から南西、地下鉄2駅分ほどの所にある、川沿いの大きな公園内にある。最寄駅になる6番オレンジ線のヤキマンカ駅からすこし距離があるようだが、やんだばかりの雪で湿った道は、うまれてはじめて履いたスノーブーツを試すのに、絶好の機会だ。ちなみにヤキマンカの地名は、日本のインターネット上では、何故かヤキマンコという名前で呼ばれてれている。



(今日の日記漫画は無しですよ。)


 こちらは、本館と別館の伝統的な建物とはガラッと変わり、コンクリートの箱のような、いかにも20世紀的な建物だ。オープンは1983年とわりと新しい。新館は主に、常設展として、1917年ごろから1900年台初頭のソビエト時代の作品の展示場と、企画展などを行う複数の展示場があり、いずれも独立した入り口を持っている。




 今日のスケジュールとして、まず初めに特別展示室へ。2月22日に始まったばかりの「ロシアのおとぎ話の展示会」を見るのだ。入り口に到着はしたものの、10人づつの入出場制限をしているらしく、外の列に並んで待つこと10分。手荷物検査後、チケットを購入、500ルーブル。コートを預けて二階へ上がると、展示会の看板にもなっている、ヴァスネツォフの『イワン王子と火の鳥と灰色狼』のイワンとエレーナと狼の絵をを可愛らしくデザイン化した大きな看板が出迎えてくれた。展示会場の入口へ向かう大きなホールは、まるで冬の空にうかぶ雲か生霊か鳥か雪か、とにかく見るものにインスピレーションを与えるような、たくさんの白い布の塊のようなものがぶら下がり、エスカレーターを降りると、なんと、銀世界が待っていた。




 ロシアのおとぎ話の世界をイメージした室内には、4つの部屋で構成されている。まず、入口に緑色の四角い「石の部屋分岐点」という部屋があり、そこから東西南北に扉が放たれていて、見学者達をおとぎ話の世界へといざなう。




 南の入場口を基準にし、東は地下の王国で、迷路のように複雑な暗い部屋になっており、見学者達はヒーローになって、三頭のドラゴンと戦ったり、バーバ・ヤーガと出会ったり、王冠やクリスタルの棺桶を、まるで氷の洞窟のように模られた展示室内を、上へ下へと探りながら冒険する。西は水中王国で、人魚やカエルの王女様、ルサルカやサドコや金魚などと一緒に、大きな波が押し寄せ、黄金の魚が泳ぐ空間でただよう。




 北は魔法の森で、大きな円形の部屋の壁には、上から下までぐるっと大きな鏡が貼り付けられ、雪化粧で真っ白に輝くような沢山の大木が立ち、動物たちが隠れ、中心には大きな熊が眠っている。 展示室の最も北にもう一つの四角い分岐点があり、四角を区切る斜めに建てられた壁には、ヴァスネツォフ画の魔法の絨毯の絵が飾られ、その奥の突き当たりには下半分がとろけた絨毯が飾られている。その左右の壁に、私の大好きな頭が女性で体が猛禽類のスラブの妖怪、シリンとアルコノストの対の立体作品が配置されていたのも、この展示会ならではだ。




 そのあちこちに、絵画や彫刻、写真、ビデオ、音、絵のキャラクターの小道具などが散りばめられている。展示室のどれもが、驚くほど手が混んであり、まるでテーマパークにでも来たような雰囲気だ。ここまで手の込んだ絵画の特別展は、生まれてから一度も見たことがない。

 もちろん、各部屋ごとにふさわしい物語の作品が展示されており、映像作品のあるものの一部は、そのビデオと衣装のスケッチなどともに展示され、各キャラクターのそばには、剣やホウキのようなふさわしい小道具も用意されている。覗き穴から見る作品や、絵や写真をデジタル処理をし、まるで動いているように見せるインタラクティブなものもたくさんあった。




 展示品のほとんどが、イリヤ・レーピン、ヴィクトル・ヴァスネツォフ、ミハイル・ヴルベル、レオン・バクスト、エレナ・ポレノバ、イヴァン・ビリビンなどのお馴染みの作家の有名作品ばかりだが、現代アーティストによる新しい作品も多数展示されているため、うまくバランスが保たれ、子供からお年寄りまで、見るものを飽きさせないであろう、楽しい空間に仕上がってた。



 満足して会場を出て、新刊の常設展へ移動する前に、もうひとつ別の展覧会の入り口があったので入ってみることにした。こちらでは活躍中の作家を含む、現代芸術の展覧会が行われていた。彫刻、絵画、写真、版画、手芸、なんでもありで、想像以上にたくさんの作品が展示されていた。どのの作品のもレベルが高く、個人的に購入したくなるようなものも多数あった。どこの国でもそうかもしれないが、美術作品も、強いメディアが持ち上げたりしない限り、多くの人々が目にする機会はほぼ無いというのはとても残念なことだ。



 彫刻の写真を撮っていると、私と反対のルートから鑑賞していた白髪の中年男性が、歩きながら柔らかな笑顔で軽く話しかけてきた。こちらも笑顔を返したが、あれは、たのしんでますか?とか、お気に召しましたか?とかいっていたのだろうか。なんだかよくわからないけど、こういう場所での他人同士のさりげない交流はとても嬉しい。言葉がわからないのが悔やまれる。




 常設展示室へ向かうために、一旦外へ出る。夕方近いが、まだまだ明るく、駐車場に展示されている車のオブジェは、子供達がよじ登ったり笑ったりてして大賑わいだ。



 ここでもまたチケットが必要になる。大人一枚600ルーブル。ATMがあったので、ついでにここでお金も下ろしておく。海外旅行先のATMで現金を引き出したいときは、博物館や美術館、もしくは必ず警備員がそばにいるような場所を探して利用することにしている。なぜなら、大体すいているため、慣れずにもたついていても、じっくり落ち着いて操作できることと、監視の目が行き届いているため、スキミングや窃盗の心配がほぼ無いからだ。




 入場してすぐ階段を上がったところの吹き抜けに、打楽器のような遊べる作品と並んで、みたことのある鉄の彫刻が現れた、ウラジミール・タリトンの“第三回国際記念碑”だ。タトリンの塔とも呼ばれる、鉄柱やガラスなどを組み合わせて作った螺旋階段のような塔の完成イメージ模型なのだが、20世紀初頭の芸術や文化を描いた書籍でたびたびお目にかかるのだ。自分の記憶が確かなら、今まで、あまり解像度のよろしく無い白黒の写真でしかみたことがなかったのだが、目の前にドンと登場すると流石に面食らう。写真だと冷たい無機質な塔のように見えていたが、実際はその反対で穏やかで柔らかい雰囲気があった。そのほか、展示室へ向かうまでに、いくつかの彫刻やレリーフをたのしんだ。また、大きな窓から見える外の景色がとても良い。




 そして、こちらでも美術館内の所々で、複数の特別展を同時に開催しているようで、この日が最終日だった、『芸術文化博物館100周年記念の展示会』から回ることに。私は未来派などの抽象芸術も好きなので、ここでも嬉しいプレゼントをもらったような気持ちで入場した。


 1919年から1929年の10年間だけ存在し、その後はトレチャコフ美術館に吸収された、“中央モスクワ芸術文化博物館”の所蔵品のなかでも、"リストNo. 1"と呼ばれる最高の作品たちを集めた展示会だそうだ。

 リュボフ・ポポワ、カジミール・マレーヴィッチ、ワシリー・カンディンスキー、ナタリア・ゴンチャロワなどの、ロシアを代表するアヴァンギャルド芸術形の作品を、1920年代半ばのモスクワ芸術文化博物館の博覧会での記録を元に、当時のレイアウトを再現して展示しているというこだわりようだ。

 

 特別展示場を出て、もう一度吹き抜けを囲む廊下に出る。常設展の入り口は、黒枠のガラス張りのなんでもない扉がひとつ、これだけ大きな美術館のメインルームであろう場所なのに、その小さな入り口には少し驚いてしまった。




 トレチャコフ美術館本館とは真逆の、飾り気のない無機質な展示室内は、規則正しい迷路のようになっている。右と左のどちらからでも進めるようだが、私は左から進むことにした。

 カンディンスキー、シャガール、ロドチェンコ、レントゥーロフ、コンチャロフスキー、サリヤンをはじめ、前衛芸術、社会主義リアリズム、近年の新しい作品など、ロシアの芸術にくわしくはなくても、少し芸術を勉強したことのある人であれば、ぱっと頭に浮かべるような作品が多数展示してあるのが、ここ新館の常設展示室である。日本でも大変人気のある、シャガールやカンディンスキーなどの、色彩の洪水のような作品だけではなく、もちろん、生活のいちぶを切り取ったような写実的な作品も多くある。




 こちらも、多くの美術館のように、作家や時代、ジャンルごとに分けてあるが。別々の作家が書かれたであろう絵でも一枚一枚順におっていくと、なんと、ストーリーが繋がっているように読み取れることに気づいた。

 例えば、元気な子供たちを描いた絵画が並んでいるコーナーがある。そこで友達と楽しく遊ぶ子供達の絵の次には、同じ年齢ごろの男の子が寄宿学校へ行くであろう日を切り抜いた作品、その次は、また同じくらいの年齢の、渋い顔をして学校から帰宅した少年を叱っているであろう母親のいる作品がある。ここで終わりかと思って角を曲がると、枯れ草の上で頭から血を流して倒れている牧童の絵があり、また左を見ると、銃を持ち、腰に手榴弾をぶら下げた老人の絵がある。5枚は別々の作家の作品であろうが、ここまでストーリーを持たせる演出は、どこの国の美術館でもまず無かなかったとおもう。しかも以降の数点は、ソビエト色の強いもので締めくくられている。ここまに来るまでずっと華やかで明るい作品が続いていただけに、唸ってしまった。








 他に面白かったのは、友人であろう彫刻家の肖像画を描いた絵の前には、その彫刻家が絵の中で制作中だったものの完成品が鎮座し、大家族の女性たちが記念写真のようにならぶ絵の前には、寝転んで頬杖をつき微笑む少女のブロンズ像があるなど、このように、ほぼ全ての展示室で、絵と彫刻をうまく組み合わせた展示を行っていたのも印象的だった。




(帰り道、偶然通りかかったところにあった、お菓子の家のような可愛い建物。イグモヌフという豪商が建てさせた邸宅で、現在はフランス大使館として使用されているそうな。)


 気付けばそろそろ6時になる、お腹も空いてきたので帰ることに。美術館の庭の彫刻を見歩きながら朝来た駅へ向かうが、なんと、駅へ着いてみたら、トロイカカードのチャージ機のある入り口が点検で閉まっているではないか。朝ここへくるときに使い切ってしまったので、乗車できる回数はもう残っていない。しかたなく、昨日利用した駅まで歩くことに。先にチャージしてからくるべきだった。

 ようやく券売機を見つけて、あらかじめスマホの写真に保存しておいた、操作方法を見ながらいじってみたが、いまいちうまくいかない。すると、後ろに並んでいた、同じ年齢くらいの男性が手を貸してくれて、ようやく手持ちの少ない小銭からで50ルーブルだけチャージ完了。名も無い紳士には感謝しても仕切れない。


 なんとかプロスペクト・ミーラへ到着し、今後このようなことがないよう、思い切って、1ヶ月使い放題のチャージをすることに決心した。2170ルーブル。初めからこうすればよかった・・・明日から出来るだけ地下鉄やトラムを利用しよう。



(おやつによく食べたプリャーニク。これはスーパーで売っている一口サイズのもので、蜂蜜と小麦粉やスパイスなどで作ったお菓子で、ちょうど日本のかりんとうと丸ぼうろと甘食のいいところを足して割ったような味や食感をしている。安いしほんと好き。

これにもっとスパイスを足し、ドライフルーツやナッツを混ぜ、メッセージや動物などが描かれたりした型にとって焼いたおまんじゅうみたいなものもある。)


次回、6日目。

『サーカスと人形劇を見た〜い!の巻』

 へ、つづく。


旅の準備から前日19日、ロシアへいきた~い!の巻

2月20日、『レーニンを見に行きた~い!の巻

2月21日、『ガガーリンとライカに会いた〜い!の巻

2月22日、『トレチャコフ美術館へ行きた~い!の巻

2月23日、『おとぎ話の世界にきちゃった〜!?の巻

2021年2月28日日曜日

2020年モスクワ旅行記(4日目)。トレチャコフ美術館へ行きた~い!の巻。

  2月22日土曜日。

 今日も晴天で朝日がとても眩しく、気温は1度。

 なんだか日本が騒がしいようで、起きて早々、母からビデオ通話(ハングアウト)がかかってきた。日本では全国的にポツポツとコロナ感染者が現れ始め、マスクや消毒液、トイレットペーパーの奪い合いや高額転売などの醜い事態がまだまだ続き、韓国では宗教集会などを中心にコロナ感染者が急増し、アメリカではインフルエンザ(というが多分コロナ)が猛威を振るい、また、影響はほぼないと言われていたヨーロッパの方でザワザワし始めた頃だ。外務省と在ロシア大使館からのお知らせメールをとっていたので、そこから届く情報によると、中国人以外の多国籍者のロシア入国制限は行われないとのことだし、感染者も確認されておらず、入国の際にがっちり振り分け隔離するとの話を聞いていたので、引き続き滞在を続行することにした。それでなくても、まだ来たばかりだ。


旅の準備から前日19日、ロシアへいきた~い!の巻は、←こちら。

2月20日、『レーニンを見に行きた~い!の巻は←こちら。

2月21日、『ガガーリンとライカに会いた〜い!の巻は←こちら。


 

 朝8時半ごろにホテルを出発。今日はトレチャコフ美術館の本館へ行くのだ。そこにはソビエト以前のロシアの作家の絵画や彫刻が山ほど展示してある、絶対に外せない場所の一つだ。オープンにはまだ早いので、歩いて赤の広場へ行き、少し休憩。どうやら今日から三連休のようで、マースレニッツアの屋台や催し物も、今日から始まるらしい。楽しみだ。無人の二階建てメリーゴーランドなどを写真に収めたりしてから、また動き出し、モスクワ川にかかる橋を渡り、そこからさらに歩いて、トレチャコフ美術館本館にやってきた。入館料は500ルーブル。


2コマ目。
セレヴリャコワ、朝食。

アルヒーポフ、お客さん。

シーシキン、松林の朝。

ヴルーベリ、倒されたデーモン。


4コマ目。

ネステロフ、少年ヴォルフォロメイの幻視。


 はじめ、赤と白の、いかにもな美術館的建物にたどり着いたので、てっきりそれが入り口だと思ったら、どうやらその並びにある、可愛らしい装飾の民家のようなところが正式な入り口だった。なるほど、入館者を見守るように、パーヴェル・トレチャコフの銅像が立っている。



(初見で美術館の入り口っぽいけど、美術館の入り口ではないところ)


 ここは19世期に存在した富豪のトレチャコフ兄弟が収集した18世期から19世期の膨大な数のロシア作家の作品を展示するために、自宅を解放したのが始まりの美術館で、彼らの死後は国営化し、今の形になっているという。入口の愛らしいファザードは、昨日訪れたヴァスネツォフの家美術館の、ヴァスネツォフがデザインしたものだ。入口からすでに所蔵作品である。ちなみに、赤と白の建物は別館で、映画などを上映するホールになっているらしい。


 入口から階段を降りると、チケット売り場やクローク、お土産屋などがならぶロビーへ出た。営業開始したばかりの時間帯で、団体観光客がいないせいか、人はまばら。売店で、外国の観光地の書店やキオスクによくある、各国語に訳された写真ガイドブックがあったので、見学する前に購入することに。600ルーブル。数年前まで、この手の本は胡散臭そうで嫌煙しがちだったが、実際買ってみると、綺麗な写真やわりと細かい解説もあり、後々見返すとなかなか面白いので、見つけるとなるべく購入するようにしている。


(マリャーヴィン、旋風。)


 ロビーから続く長い階段を上がり、チケット確認を済まし、展示室へ入ると、まずはじめに、巨大な赤い絵が飛び込んできた。フィリップ・マリャーヴィンの作品、”旋風“である。2011年にベネチアの美術館で初めて彼の絵を見て以来、えらく気に入り、彼の作品をもう一度見たいと思っていた。思えば、帝政時代とソビエト時代のイラストレーション意外のロシアの絵画に関心を持ったきっかけとなった出会いだったかもしれない。彼は民族衣装姿の田舎の女性たちを多く描いており、特徴として、赤を貴重にした華やかな民族衣装と、飾り気のないごく普通の女性たちを、やや大袈裟に、画面からはみ出すが如く躍動感たっぷりに描くのだ。宗教や貴族たちのために描かれた、打算的な雰囲気のある西洋絵画とはちがった、ありのままで野性味あふれる世界である。


(ベルスキー、暗算。この絵も人気で、絵の黒板内の問題を計算しているひともいた。しかし額にガラスが嵌め込んであるから、反射してよけいうまく写真が撮れない。)


 小さな家のような入り口だが、館内はとても広い。展示室内は、多くの美術館のように、作家や時代、ジャンルごとに分けてあるが、特に、作品のテーマごとに並べてあるようだ。有名な作家のものはだいたい固まっており、なおかつ、作家ごとに得意とするテーマがあるため、それだけでも統一されたコーナーが出来上がるのだが、それぞれの作品をつなげるように、家族が描かれた作品のコーナー、貧しい人々が描かれた作品のコーナーなど、多くの作家たちの軌跡が間をとるが、ここでもひと工夫あり、広い田舎のリビングを描いた作品の周辺には、女性が針仕事をする絵や、子供が本を読む絵などが散りばめられ、無機質なもののはずの絵や彫刻から、声が聞こえるような空気感がある。それから、子供や老人を描いた絵が多いなと思った。


(スリコフ、モロゾヴァ婦人)


 特にヴァシリー・スリコフの代表作「モロゾヴァ婦人」(日本人にはモロゾフ婦人と言った方が馴染みがあるかも)は、超巨大なキャンバスの周辺を包囲するかのように、たくさんのスケッチが展示されていて、見るものを飽きさせない展示になっており、また、物語の絵を得意とするミハイル・ヴルーベリのコーナーは、とても大きくとってあり、グランドピアノが鎮座する天井の高いホールを使って、大きく長い作品を中心に多数展示してあった。



(ヴルーベリ、幻の女王。)


 そのほか、緑あふれる自然の作品を多く残し、とくにチョコレートの包み紙にもなっている、森で遊ぶ可愛い熊の絵で有名なイヴァン・シーシキン。貧しい人々を描き続けたヴァシリー・ペロフ。彼の作品で最も有名なのは、ドフトエフスキーの肖像画だろう。自分自身と家族、そして女性たちの愛情に溢れた明るい作品を多く残した、ジナイダ・セレブリアコワ。海や船の絵ばかり描いていたイヴァン・アイバゾフスキー。中東や日本を含めたアジア諸国を回り、人々や風景の記憶を精密な筆で残したヴァシリー・ヴェレシチャギン、黒ずくめの娼婦が馬車から見下ろすイヴァン・クラムスコイの名作も我が家であるトレチャコフ美術館の赤や緑壁紙の上に鎮座していた。




 ロシアとソビエトの絵画の特徴は、あらゆる身分の人々の、ありのままの姿を描いてあることだと思う。辛いことも、楽しいことも、とても正直な気持ちで描かいたのだろうというのがうかがえる。写真や日記のように、正しく記録しておこうと思っていたのかもしれない。帝政ロシア時代はともかく、ソビエトの時代など、いろいろと厳しかったであろうと思うのだが、プロパガンダ的なものでも、それまでと変わらず、とても自然な人間の姿が描かれているものが多いので、たぶん、ロシアという国で存在できる作家の条件として、こういった飾らないものを自然に描写できるという暗黙の何かがあるのかもしれない。

 

 書き忘れたが、今日の昼は、展示品を2割ほど見たところで、地下のカフェテリアで昼食を取った。きのこのピロシキとチキンスープ、色々な赤い野菜が入ったサラダと、オレンジジュースでお腹がいっぱい。店から出ると、見学者の数が増え始めていた。どこの国でも昼頃から人が集まり始めるのだな。




 それから存分に見学し、15時過ぎまで館内にいたと思う。どうせなら閉館まで粘ろうかと思ったが、流石に疲れてきた。とりあえず美術館を出て地下鉄の駅へ向かうことに。朝きたときには気づかなかったが、美術館からすぐ南東にある、小さな公園に、さまざまな絵画を模したとてもユニークな噴水オブジェがあった。トレチャコフ美術館の150周年を記念して作られた公園らしい。とても落ち着いたところで、周囲にカフェもあり休憩するにもちょうどよく、暗くなるとライトアップもするそうなので、トレチャコフ美術館本館とぜひセットで訪れてほしい。


 さて、地下鉄2番緑線のノヴォクズネツカヤ駅に来たが、このままホテルに帰るのもつまらないので、今朝見たマースレニッツァのお祭りを見に、北に1駅のキタイ=ゴロドで降りることにした。今朝メリーゴーランドを見たマネージュ広場に出ると、たくさんの人と出し物で、とても穏やかで華やかなお祭りが始まっていた。




 マースレニッツァは、ロシア、ウクライナ、ベラルーシなどで行われている、冬を送り、春を迎えるための、東スラブの宗教とキリスト教が癒合したお祭りだ。正教会のイースターの日から決まった週を、逆算して出した1週間がまるまるマースレニッツァのお祭りになるため、毎年2月末から3月上旬あたりが該当するのだが、2020年は2月24日から3月1日までだったので、ちょうど今回の旅と重なったわけだ。今日は22日なのだが、ここマネージュ広場と赤の広場、そしてザリャジエ公園などでは数日前から祭りのような雰囲気がはじまっていた。




 特に賑わっていたのが、赤の広場に隣接するマネージュ広場で、食べ物の屋台や、お土産の屋台、アイススケートリンク、動物ふれあいコーナーのほか、それぞれの民族衣装を着た人々による、工芸体験コーナー、コサックの整列訓練の体験、鍛冶屋やスラブの精霊達のパフォーマンスのほか、なかなかお目にかかれないような伝統的な催し事も、あちこちで行われていた。

 うろうろしていると、ちょうど民族衣装姿の中年女性のコーラスが始まった。美しい歌声を聴いていると、少し離れた場所で、成田でもモスクワに到着した時もみかけた、ヴァイオリンらしき楽器のケースを持った小柄な日本人の少女と、よく似た母親らしき女性がいるのが見えた。知り合いでもない他人なのだが、なんだかちょっと嬉しくなってしまった。




 それから、ふと思い出して、マネージュ広場を離れ、先日お参りした教会とグム百貨店の間から始まるニコリスカヤ通りを歩くことにした。通りの端から端まで、雪のようにきらめくアーチの飾りを抜けると、その建物が見えてきた。通りの出口の北に大きなデパートが見える。おもちゃと子供用品専門の巨大デパートだ。児童向けのイラストレーターをしていることもあって、ロシアの子供達には一体どんなものが受け入れられているのかが知りたかったのと、イヴァン・ビリビンの絵のステンドグラスがあることと、画材屋を見てきたかったのだ。


 入り口を入るとすぐのステージに人だかりがあり、DCコミック映画のハーレイクインのコスプレーヤーがインタビューを受けている最中だった。いきなりのザ・オタクイベントに度肝を抜かれてしまった。ほかにも、ワンダーウーマン、マイリトルポニーエクエストリアガールスのフラッターシャイ、あとは名前がわからないが、コミックのキャラクターやゲーム、日本のアニメであろうキャラクターに扮した人もいて、どれもみんな本物かとまごうほど綺麗に仕上がっていた。外の伝統的な祭とのギャップはすごいが、こちらもファンにとっては大事な祭りであることは間違いないだろう。



 ここのデパートの中はロの字になっており、中心の吹き抜けには大きな振り子時計がぶらさがり、天井をぐるっと囲むようにイヴァン・ビリビンの絵のステンドグラスがあるのだ。まずこれを見ないとこの建物の散策は始まらないのだが、その広場一回の中心でも、おもちゃやお菓子の屋台、そして日本のアニメ爆丸の特設イベントが行われていた。盛況しているようで、人気があるのだな。





 イベントの他に、館内では、つねに職人達の確かな腕を堪能できる、たくさんの展示物を楽しめるようになっていた。レゴでできたモスクワの有名な建物を集めたジオラマや、等身大であろう大きさのガガーリンととライカのレゴ。動物やマーベルヒーロー達のリアルなスタチューに、人気アニメ、マーシャと熊のマーシャの大きな像。ロシアの御伽噺を集合させた、ジンジャーブレットの大作も素晴らしかった。

 ロンドンへ行ったときに、日本にも進出している、世界的に有名なおもちゃデパートハムリーズへも寄ってみたが、そこよりももっと規模が大きい。のちにモスクワ内のハムリーズへも行って来たので、こんどその話もちょこっとできたらなと思う。






 各階を散策していると、女児玩具のコーナーで聞き覚えのある音楽が流れてきた。アメリカのアニメ、マイリトルポニーの音楽だ、それも公式で擬人化したシリーズのエクエストリアガールズのオープニングである。


 私は年2回、友人が企画する日本のコミックコンベンションにアーティストとしてテーブルを借りており、そこで毎回、リクエストに応じた簡単なイラストを有料で受け付けている。2、3年ほど前から、マイリトルポニーの公式擬人化アニメのファンの方から、ご依頼をいただいていたのだが、アニメというのも自体とんと見なくなっており、ましてやマイリトルポニーなど、子供の頃に人形で遊んだきりで、どうもそのイメージもあり、何よりハマったらいわゆる沼であろう危険もあって、しばらく依頼があれば絵を描くだけで終わりにしていた。が、昨年の初夏、ふとYouTubeの公式サイトで見た結果、まんまと打たれてしまい、ストーリーが配信されている有料動画サイトに登録したり、自主的にファンアートなどを描いて、SNSにアップするまでになってしまった。


 音楽の出所へ行ってみると、なんと、派手な特設ステージができているではないか。そこには弓形になった舞台をイメージしたスペースに、身長160センチくらいはありそうな人形のエクエストリアガールズのメインキャラクター達がポーズをとっている。そのステージの手前にはボタンがあり、それを押すと音楽が流れ、ミラーボールが回る仕組みだ、さっきまで子供がそれを押して遊んでいたようで、色とりどりの緩い光が動く舞台を背に、満足そうに別のコーナーへ移動していった。私も押して動画でも撮ってみるかと思ったが、すぐそばで子供用化粧品の美容部員が座るテーブルが出ていたので、恥ずかしくて写真のみで諦めることに。


 ステージの後ろ、反対側では、本編のポニー達の大きなスタチューが、プリンセスセレスティアの玉座を守っているし、ビデオも数カ所で流れていてなんだかすごい。まさかモスクワまで来てこんな出会いがあるとは思いもよらなかった。

 なぜか版権もののグッズを買うと、興味が薄れてしまう不思議なジンクスが昔からあるため、ここではグッズを購入することはなかったが、今思えば日本で買うよりぐっと安いし、ロシア限定のものもあったかもしれないので、何か買っておくべきだったかと後悔している。それと、動画も撮っとくべきだったか…。


 ちなみに、滞在中、児童向けアニメチャンネルで、平日夕方6時ごろから、毎日、マイリトルポニーのシーズン9を放送していた。この頃はまだ日本語吹き替えのあるシーズン4までしか見たことがなかったこともあり、どうしようかと思ったが、結局毎日視聴してきてしまった。過去にはエクエストリアガールズも放送していたらしい。だからあそこまで派手に展示ができていたのだな。


 その他、色々なコーナーを見て、5時半ごろにデパートを出た。しかしまだ外はとても明るい。北国のモスクワだが、以外にも日が落ちるのが遅いようで、7時ごろにようやく暗くなったくらいだ。ちなみに朝日が出て、あたりが明るくなるのも早かった気がする。東京とあまり変わりはないかも。




(おもちゃデパートの近くにある古いデパート。2016年のモスクワ旅行の際に観光バスから見かけて気になっていたのだ。モザイク画は、トレチャコフ美術館で見て来た、ウルーベリの幻の女王の絵であった。)


 デパートから南東に歩き、6番オレンジ線のキタイ=ゴロド駅からプロスペクト・ミーラ駅へ帰ることにした。駅に向かう途中の通りは、赤やオレンジ色に淡く光るアーチがいくつも続いていた。


次回、5日目。

おとぎ話の世界にきちゃった〜!?の巻

 へ、つづく。


旅の準備から前日19日、ロシアへいきた~い!の巻は、←こちら。

2月20日、『レーニンを見に行きた~い!の巻は←こちら。

2月21日、『ガガーリンとライカに会いた〜い!の巻は←こちら。