2016年12月28日水曜日

2016年の岩手ひとり旅〜座敷童編〜

 もう一年も終わりですが、今年の夏の国内旅行のことをブログに書き残しておこうかなと、おもってみたわけです。

 平成28年の夏の日の某日、岩手県へ行ってまいりました。今回は「ひとり」と、いっても、前半はいつもの母方の親戚のお世話になったので、孤独な旅ではなかったのだけど。

 どんよりとした空の東京駅から、こちらも曇り空の水沢江刺駅に到着すると、迎えの従姉の車に流れるように乗り伯母の家へ。ひと休みをしてから、お墓参りをすませ、同市にある平安時代のテーマパーク「藤原の郷」へ。

(園内にあるアラハバキ)

 今回の旅の目的の一つは、パーク内のマネキンが着ている着物の写真を撮ること。旅行前に、仕事で平安時代の衣装の資料が必要になったのだ。 しかし、「藤原の郷」はすぐそばに別の親戚の家があるにもかかわらず、一度も足を踏み入れたことがなく、私にとっては謎の施設。母や親戚から、「ただ広いだけ。」「時代劇のセット以外はなにもない。」などなど、がっかりテーマパークであるようなことを散々聞かされてきており、なおかつ私自身もあまり興味が無かっただけに全く期待はしていなかったのだが、建物の中に入れたり、触れて遊べるところがあったりして意外に楽しめるではないか。しかし、母たちの話は嘘ではなく、脚色なしに全くその通りのテーマーパークだったということは否定できない。土産物屋や資料館などもあるが、もともと大河ドラマの撮影のために作られた施設だしね。だが、平安時代のセットと自然豊かな景色がよくマッチしていてとても美しい。紅葉の頃にまた来てもいいかな、と、思いました。
 言いたい放題して大変失礼いたしました。


(鹿踊)

 ちょうどこの日はパーク内で岩手の伝統舞踊「鹿踊」のショーがあり、園内に入ると、間もなく始まったので見て行く事に。衣装は、東北新幹線の水沢江刺駅に展示されているので、岩手へ来るたびに見ていたのだが、踊りは子供の頃に夏休みに遊びに来た際に、お祭りのパレードで数回見たきりで、鹿踊だけを見るのは今回がはじめて。白く長い二本の流しと小さな顔のせいか、子供の頃は「でかくてかっこいい」という印象だったが、今回もやはり「でかくてかっこいい」鹿踊であった。


  そんなこんなで1日目は終わり、翌朝、今回お世話になった親戚の家の最寄りになる水沢駅から、鈍行で盛岡へ出発。  
 長いオープニングでしたが、ここからが今回の旅の本番。  

 岩手県内は、どこへ行くにも親戚らが運転する車で移動していたので、岩手のローカル電車に乗るのも電車で盛岡へ行くのも初めて。2両ほどの電車に揺られ、1時間程度で盛岡駅に到着。今回の旅の真の目的は、1年前に予約を取った、座敷童子の宿「菅原別館」へ泊まるためなのだ。数年前に全焼し、今年から営業を再開した、金田一にある有名な「緑風荘」だけではなく、盛岡にも座敷童の宿はあるのだ。去年の夏、精神的に不調だった時期に出かけた岩手旅行の際、従姉と、座敷童子の宿に泊まり、わらしと出会うと幸運に恵まれるという話をしていたことを思い出し、東京に帰宅後しばらくしてから、苦しい時の神頼みよろしく、宿に電話をしてみたら、すんなり予約が取れてしまったのだ。ここの宿に泊まれるのは予約した日からちょうど1年後。なので、珍しく岩手ひとり旅なのです。

 座敷童のことをご存じ無い方はあまりいらっしゃらないかと思いますが、家に付く小さな子供の姿をした精霊のような存在で、家に住み着くとその家に幸運と富をもたらし、家を去ってしまうと不幸をもたらすと言われています。わたしは座敷童というと、遠野の遠野市立博物館に、訛りの強い老婆が話す遠野の昔話のテープが聞けるコーナーがあり、子供の頃にそこで聞いた座敷童の話を思い出す。たしか、2人の座敷童が住む裕福な家があったが、ある日、わらしたちが家から出ていってしまう。すると7歳の娘以外の屋敷の住人全員が、キノコの毒で死んでしまうという強烈な内容。たしか、柳田国男の「遠野物語」にもその話が載っていたので、興味があればぜひ読んでみてください。

(烏帽子岩)


 チェックインの16時までは時間があるので、駅ビルの中でお昼ご飯の盛岡冷麺を食べてから、駅のコインロッカーに荷物を預けて、コミュニティバスや徒歩で市内観光をすることに。 盛岡名物の烏帽子岩や石割桜、TV局周辺も子供の頃に来たきりで、しかも車移動だったので地理がわからなかったのだが、改めて歩いてみると違った見方ができて面白いなと。地方都市よろしく、駅前とメインの商店街だけ栄えてえていて、あとは住宅街と市役所などの施設だけ、駅からだいぶ離れると、畑もポツポツ出てくる様子は、東京の成城や吉祥寺近辺などと変わらないなぁ。という印象。

  観光後、16時過ぎに宿の最寄りのバス停に到着。"そこから歩いてすぐのコンビニのそばにある"とホームページに書いてあったので、その通りに歩いたつもりだったのだが、なぜかそのコンビニから数百メートル離れたところにある、もう一軒の同じ名前のコンビニにたどり着いてしまい、なかなか宿が見つからない。グーグルマップを起動して、GPSを使ってようやく宿にたどり着いたのは、陽もすっかり落ちた5時半過ぎ。宿への道のりに看板もあり、バス停からさほど離れていないはずなのに迷子になるダメっぷり。

(宿の入口)

   「菅原別館」の暖簾をくぐると、目の前に男の子の晴れ着が飾られており、下駄箱の横にも、右手の床の間のようなところにもオモチャがたくさん並んでいる。すぐに主人であろう男性があらわれ、部屋へ案内されている途中、目の前に小学生くらいの少年の姿があらわれた。一瞬、座敷童子か⁈と思ったが、この宿のぼっちゃんらしく、夕食のお手伝いをしているところだった。申し訳ない。宿内はさほど広くなく、よくある"昭和の旅館"といった普通の宿なのだが、ありとあらゆるところに、宿泊客が置いていったという人形やオモチャであふれている。あまり下調べせずに、半信半疑のままたどり着いてしまったが、 これには驚いた。

 この宿は1日3組しか客を取らず、今回、私が宿泊したのは、26番の部屋。いよいよ客室のふすまを開けると、床の間に山と積まれたオモチャたちが出迎えてくれた。

(床の間)

 とりあえず荷物を置き、お茶とお菓子をいただいてから、銀座の博品館で購入してきた馬のヌイグルミを床の間のたくさんの人形たちの上に置いて、座敷童にプレゼントし、6畳ほどの室内を散策。床の間のオモチャの山と、ゆらゆらゆれている2つのモビールのほかに、柱や電灯のスイッチ紐などに、つるし雛や手毬、人形、乳幼児用の甚平なども飾られており、窓際の鴨居には、宿泊客が願をかけて置いていったであろう名刺がびっしりと並んでいる。それから、この部屋には広縁があり、そこの両壁にある棚からもたくさんの人形とオモチャが迎えてくれるのであった。どこかしらの子供のいる家に招待された際に「うちの子供の部屋なんです〜。」と紹介されても全く違和感の無い、あたたかな客室。

 食事も風呂も終え、iPhoneで音楽を聴きながら、持ってきたスケッチブックでお絵描きを始めると、右肩と肩甲骨がビリビリと痛み出した。迷子から来た疲労であろうものなのだろうが、タイミングが良すぎてなんだか不気味。なんとなく、「一緒にお絵描きする?」と、つぶやいてみたが、返事は無い。当たり前か。

 わたし自身、オカルト関係の話は大好きで本も書くほどなのだが、それすらもかなり現実的な目で見て探って楽しむ夢のないタイプなので、"まぁ、せっかく来たことだし、なにかあれば..." 的な、相変わらずのそっけない調子。

 その後、山と積まれていた小さなオモチャが落ちたり、外からパタパタ歩く音や、戸を開け閉めする音などが聞こえたりしたのだが、たびたび隣部屋の親子客の大きな話し声やイビキが聞こえてきて、音の主がわらしなのか、隣客なのか見当つかず。

 0時頃に床に着こうと思い、布団の方を向くと、ちょうど布団の右側に垂れ下がる、電灯のスイッチにぶら下がる飾り雛が、小さな円を描くようにユラユラと揺れているではないか。ちょっと前までは触れさえしなければぴったりと止まっていたというのに、紐にぶら下がった小さな人形の影が規則正しく動いている様子はなんとも不気味。そのまま布団に入り、電気をつけて寝ることにした。寝つきが悪く、いつも1時間以上目をつぶっていてもなかなか眠れない私が、疲れもあるのか、あっと言う間に寝てしまった。しかし、眠りが浅いのか、1時間おきに目が覚めてしまう、それも毎回、時計をみると短針だけが動いたかのように、一時間ぴったりづつ。そのたびに寝汗もびっしょりとかいていて、汗が気持ち悪いなと思いつつ、あたりを見渡すと電気の紐のつるし雛はユラユラと円を描いており、まるで催眠術のように、こっくりと眠りに落ちてしまうのであった。

 翌朝、夜中に何度も目覚めて眠りが浅い割には、目覚めはスッキリ。もう一年以上、朝はいつもモヤモヤとした頭でいたというのに。朝食の際に他の宿泊客から話を聞くと、隣部屋のお子さんも1時間おきに目が覚めていたようだが、他の方からはこれと言った体験は聞かず。残念。

(岩手山)

 チェックアウト後、昨日までの台風予報が嘘のような、ポカポカ陽気で気持ちの良い天気。朝の目覚めだけではなく、鬱々としていた気分までもが、洗濯したてのシャツのようにスッとして晴れやかだ。バスで再び駅へ戻り、帰りの新幹線が来るまでの時間つぶしのため、岩手県立美術館へ向かう。途中、駅ビル内で幼稚園の子供たちのお散歩に遭遇。美術館へ到着し、学芸員以外、誰もいない館内で1人見学していると、図画の授業か、展示品の感想を書く紙を持った小学生たちがやってきて、あっと言う間に美術館は子供達でいっぱい。おかげで楽しくすごせたけれど、座敷童子の宿に泊まったあとに、子供に縁があるなんて。偶然かもしれないけど、ご利益あるのかも?。

  嬉しいことがたくさんあるといいな。 どんどはれ。